2018/08/10 02:31

 
 遅ればせながら、ヘヴィ・メタル雑誌、ヘドバンNYHC特集を立ち読みした。
 非常に興味深い内容だったが、ヘビメタル好きな人が果たしてあの特集に興味を持つのか、万が一に持ったとして気にいるのかいささか疑問に思った。
 今は2018年である。1986年ではない。もはや、 ハードコアとスラッシュメタルがクロスオーバーしたあの時代は二度と帰って来ることはないだろうし、あったとして浅いリバイバルにしかならない。
 自分より少し上の年代のメタルキッズは、BURRN!で伊藤政則がDRIに1点付けてる、これはどんなカスみたいな音楽なんだ、聴いてみたい!という今でいう炎上商法的好奇心をくすぐられたりした(らしい)のだ。そうして、メタルに飽き足りないメタルキッズがハードコアに飛び付いた。


 しかし、今のメタル好きの子は一度メタルに夢中になると卒業しない。
今では、メタルを聴いていたら格好悪い、脱オタみたいに脱メタしないといけないという風潮がなくなってしまった。
当時、エッジの利いた地方のメタル・ファンは、「いつまでもメタルを聴いているとかっこ悪い」「自分が知らないところで、もっと凄い音楽があるはずだ(スレイヤーより速いとか)」と新しい音楽を渇望していたように思う。
自分自身、メタルに夢中になったことはなかったが、周囲にいた連中はそういう「元メタル・キッズ」ばかりだったと記憶している。
 そもそも、80年代当時、速いだとかうるさいだとか激しいだとか極端に振り切った音楽を聴いてみたい!と思っても、大都市に住んでいない限り、スピードメタルやスラッシュメタル、或いは日本人のメジャーなパンクバンドの音源しか手に入らなかったし、そもそも"Burrn!でD.R.I.に伊藤政則が1点をつけた"くらいの情報しか手に入らなかったのだ。
進学や就職のために上京・上阪して来た元メタル・キッズが世界が広がって新しい音楽と出会う。その選択肢の一つにハードコアがあった時代だった。

それから、現代のメタル・ファンはデスメタルでもって音楽的な嗜好や価値観が形成されている。
このデスメタルとハードコア、非常に相性がよろしくない。
ハードコアといってもいわゆるニュースクールとかじゃない本来のハードコア。
デスメタルを聴いて育った子にはこれが理解出来ない。
生粋のハードコアいっても、まだD-Beatやクラスティ・ハードコアだとか、ユースクルーSxEだとかイメージが食いつき易いようなハードコアなら一定の理解はするのだが、80年代のUSハードコアの類は本当にわからないようだ。
デスメタルとは100%雰囲気・イメージだけの音楽である。
雰囲気だけしかないような音楽を聴いて育ったような子が、テンションやスピード感を尺度に音楽を理解出来るわけがないのだ。
これも、現代の若者がハードコアに興味を示さない、示したとしても浅い理解しか出来ない理由の一つだと思う。

さておき、特集の内容じたいは、我々ハードコア・ファン目線で見ても非常に面白いものであった。
それゆえ、「こんなのヘドバンの読者は喜ばないだろ」という前述のレポートに繋がるんだけど。
レビューに挙げられていた音源は、いい意味で面白みのない、妥当なセレクトだったと思う。
自分は90年代のタフガイ・メタリック・サウンドは通ってないので、あくまで80年代のバンド中心の話だけれども。

特に読み応えがあったのが各インタビュー。
Panteraとハードコアの音楽的共通点は全くないけれども、やはりヘヴィ・ロック転向後のPanteraのビジュアル・イメージはAgnostic Frontのパクリだったようだ。
そして、そのネタ元、Agnostic Frontロジャーのインタビューでは、S.O.Dのボーカリスト候補にロジャーが挙がっていたという新事実(S.O.Dのレイシストっぽい歌詞を歌いたくなかったというのは後付けっぽいけど)から、ロジャーの少年時代からの音楽経歴の話まで諸々発見があった。
ロジャー曰く、元々子どもの頃はソウルやファンクやラテンに慣れ親しんでいて、ロックは聴いたこともなかったし、ツェッペリンすら知らなかったようだ。なんでも、白人の音楽に触れたのはパンクが初めてだそうで。
ミクスチャー前からずっとある、NYHCのハネたリズム感覚やうねるグルーヴ感は、Bad Brainsによってもたらされたというより、Bad Brainsと相性が良かったのだと思う。DCのハードコアキッズにもソウルやファンクのバックボーンがあったが、ニューヨークの場合非白人と彼らとつるんでるガチのホワイトトラッシュでシーンが構成されていたため、DCの連中以上にソウルやファンクをみんな当たり前のように聴いていたのだ。これは、ヘドバンにはなかった言及だけれども。

また、初期のAFがANTIDOTEABUSEDに比べて圧倒的にハードロック色が希薄なのは、ロジャーもスティグマもパンクにルーツがあるスキンヘッドだったからだろう。デイヴ・ジョーンズもドラムのフレーズからして完全にロックンロールの背景を匂わせる
クラッシュのロンドン・コーリングのジャケ撮影現場にいたほどの生粋のパンクでありながら、ブラック・サバスやモーター・ヘッドも大好きなハーリー・フラナガンらとは違うバックグラウンドを持っていたのだ。
初期パンク~ハードコア・パンク・プロト・ハードコアの流れを経た正統派スキンヘッド・ハードコア・バンドのAgnostic Frontだったからこそ、Cause for alarmでのスラッシュメタルへの突然の転身はバッシングを浴びたし、その転身を図るにあたって外部からメタルの人間を連れて来るしかなかったバンドの迷走ぶりも興味深かった。