2017/08/04 01:21
ハードコア・バンドの演奏力が上がるとスピードメタルになると得意気に吹聴する人がいます。はたしてそうでしょうか。Poison IdeaやChrist on a crutchなど、演奏力の高いハードコア・バンドはいくらでもいますが、彼らがスピードメタルどころかクロスオーバーですらないのは聴いての通り。
結局のところ、スピードメタルなのか、ハードコアなのか、はたまたそのハイブリッド、クロスオーヴァーなのかはスタイルの差異でしかないのです。
バンドに腕っこきのヘビメタ・ギタリストを連れて来たがさっぱり使い物にならない…。 皆さんもそういう経験がありませんか?
ハードコアのあのコード進行をあのテンポで弾くのは、速弾き奏法だの、クランチだの、ツーバス連打だのというヘビメタ特有の技法に劣らず難しいのです。
皆さんはハードコアが好きでアホみたいに聴きこんで、あのリズムが身に染み込んでいるから、ちょっとしたトレーニングですぐに弾けるようになるでしょう。
ところが、横綱に100メートル走をさせても一般人にすら負けるように、ヘビメタの人たちにはハードコアを演奏する技術がないのです。
さて本稿の主役Crumbsuckers(なんちゅうバンド名でしょう)は、ハードコアともスピードメタルとも言えない、 まさしく それらのハイブリッド、クロスオーヴァーの王道を行くバンドでした。ボーカルの声はジョン・ブラノンやチョークを髣髴させる、まさしくハードコアのそれですが、こんなリフをリズムそのままになぞるような唱法は絶対にハードコアではありえません。声はハードコアそのものなのに、歌い方はスピードメタル以外の何者でもない。まさしくクロスオーバーといえます。
先ほど紹介したフレーズもそうですが、ウラから食って入るようなファンキーなリズムパターン。これはBad Brainsの影響色濃い、ニューヨークのハードコア・バンドが得意とするものです。こうしたリズム・パターンは、70年代のハードロックやサイケデリックロックといったニューロックのバンドもよく用いたものですが、彼らの直接の末裔であるスピードメタルのバンドが捨て去ってしまったその技法を、異端児であり、私生児であるところのクロスオーヴァー・ハードコア・バンドが多用しているのです。これはかなり面白いと思います。
そんな海のものとも山のものともつかないようなCrumbsuckersですが、やはりその血中ハードコアDNAの優性遺伝子を感じさせるのがチェンジ・オブ・ペース。黄色いお豆さんと白いお豆さんを交配させてもレモン色の豆になるわけではありません。やはり黄色い豆が育つのです。ハードコアもスピードメタルもチェンジ・オブ・ペースを多用してテンションを上げるのには変わりはないのですが、そのスタイルには極めて大きな差異があります。
スピードメタルのチェンジ・オブ・ペースの前には、長いブレイクが入ったり、リフが変わったり、ドラムがウラを刻み始めたり、必ず前フリがあります。さあここで首フリのペースをあげましょうという合図です。